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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)20号 判決

愛知県名古屋市名東区上社2丁目96番地

原告

諏訪弘

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

同指定代理人

大塚進

井上元廣

関口博

吉野日出男

主文

特許庁が昭和63年審判第2016号事件について平成4年12月10日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「あばら筋の組立て方法とそれに用いるあばら筋」とする発明について、昭和59年9月10日、特許出願をした(昭和59年特許願第190375号)ところ、同62年12月22日、拒絶査定を受けたので、同63年2月12日、審判を請求した。特許庁は、この請求を昭和63年審判第2016号事件として審理した結果、平成4年12月10日、上記請求は成り立たない、とする審決をし、その審決書き謄本を同5年2月4日、原告に送達した。

2  特許請求の範囲(2)記載の発明(以下「本願第2発明」という。)の要旨

「あばら筋(1)をU字形にし、その端部付近に、2本以上の横筋(6)を溶着、ユニツト(7)に構成したあばら筋。」(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願第2発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  昭和50年特許出願公開第91122号公報(以下「引用例」といい、引用例記載の発明を「引用発明」という。)には、略U字形のフープ筋2に主筋1をその端部に溶接してなる鉄筋籠が(第1図のⅠ及びその説明)及び複数本のフープ筋2と4本以上の主筋1とで格子体を編成するに当って、主筋1と平行に各主筋の間にフープ筋2aを設置し、フープ筋2とフープ筋2aの交点を固着した後折り曲げて鉄筋籠とすること(第7図Ⅰ、Ⅱ及びその説明)が、それぞれ記載されている(別紙図面2参照)。

(3)  本願第2発明と引用発明を対比すると、引用発明の「フープ筋2」及び「フープ筋2a」は本願第2発明の「あばら筋」及び「横筋」にそれぞれ相当し、引用発明の鉄筋籠はユニツトであることは技術常識に照らし明らかであるから、両者は、あばら筋をU字形にし、横筋を溶着してユニツトに構成したあばら筋である点で一致する。

これに対し、横筋の溶着位置及びその数が、本願第2発明はあばら筋の端部付近に2本以上溶着したものであるのに対し、引用発明では、あばら筋の端部に主筋を溶着し、各主筋の間に横筋を1本溶着している点で相違する。

(4)  相違点についてみると、鉄筋籠の強度及び使用箇所を考慮して横筋の数及び配置位置を決定することは通常のことであるから、引用発明の鉄筋籠において横筋の溶接位置をあばら筋の端部付近に設定して複数本の横筋を溶着することは、当業者にとって格別の創意工夫を要したことと認めることができない。

そして、本願第2発明の効果も特に顕著なものと認めることはできない。

(5)  したがって、本願第2発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認めるが、その余は争う。審決は、引用発明の認定を誤って本願第2発明と引用発明の一致点を誤認し、相違点の判断を誤り本願第2発明の顕著な効果を看過したものであるから、違法であり、取消しを免れない。

(1)  一致点の誤認(取消事由1)

審決は、両発明は、あばら筋をU字形にし、横筋を溶着してユニツトに構成したあばら筋である点で一致すると認定している。しかし、引用例記載の第1図のフープ筋(本願第2発明のあばら筋に相当)はU字形に形成されているが、本願第2発明のU字形のあばら筋とは構造的に別のものである。すなわち、引用発明は、「鉄筋籠の製造方法」であり、梁鉄筋全体をユニツト化する発明である。これに対し、本願第2発明は、施工の容易さを考慮して、U字形の鉄筋とキャップタイであばら筋を構成する方式の梁の配筋をユニツト化の対象とし、主筋を除いたあばら筋だけのユニツト化を図ったもので、両者はユニツト化に関する基本的な考えを異にするものであり、引用例には、あばら筋だけをユニツト化する考え方は示されていない。また、第7図のフープ筋2(本願第2発明のあばら筋に相当)は、フープ筋2a(本願第2発明の横筋とは機能を異にするが、これが横筋であることは認める。)が主筋の間に配置されているだけであって、フープ筋2がU字形には形成されていない上、本願第2発明の横筋は、U字形のあばら筋のフックを省略しU字形のあばら筋の端部付近に横筋を溶接し、これを継ぎ手としてフックの代用としたものであるが、第7図のフープ筋2aはかかる役割を果たすものではないから、本願第2発明の横筋に相当するものではない。

したがって、引用例には、あばら筋をU字形にし、横筋を溶着してユニツトに構成したものは記載されていないから、審決の一致点の認定は、引用発明の認定を誤り一致点を誤認したものというべきである。

(2)  相違点の判断の誤り(取消事由2)

本願第2発明は、U字形のあばら筋の改良である。あばら筋がU字形である場合には、キャップタイがその上を覆うように配置されて、あばら筋が構成されている。そして、この場合、U字形のあばら筋の端部とキャップタイの接続部(継ぎ手)は、U字形のあばら筋の端部にフックを設けることで処理されているのが通常である。しかし、このような処理方法では、余分の鉄筋を必要とするし、突起のため配筋作業も容易ではない。そこで、本願第2発明においては、フックに代わるものとして、U字形のあばら筋の端部近傍に少なくとも2本の横筋を一体的に溶着することによって、キャップタイとの継ぎ手部を構成するようにしたものである。これに対し、引用発明のフープ筋2aは、主筋と平行に横方向に配置されている鉄筋であるから、この意味で横筋ということはできるが、その機能は、主筋と主筋の間に配置され、鉄筋籠の補強用鉄筋として、籠の変形を抑制するために設けられたものである。したがって、本願第2発明の継ぎ手部としての横筋とは全く関係のないものである。以上のように、本願第2発明の横筋の本数及び固定位置は、鉄筋継ぎ手部の構成要素として構造的に意味のあるものであり、審決のように、鉄筋籠の強度及び使用箇所を考慮して鉄筋の数及び配置位置を決定したものではない。また、被告は、U字形のあばら筋同士の上端近傍に横筋を溶着した方が安定すると主張するが、このことはU字形の形状の保持には何の関係もなく、かえって、重心が上に行くためねじれ易く、形状は不安定となるから、前記主張は失当である。

また、審決は、本願第2発明の横筋を配した構成の技術的意義を誤解したことにより、キャップタイの取付けを容易にするという引用発明にない顕著な効果を奏する点を看過したものであり、誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

請求の原因1ないし3認める。同4は争う。審決の認定判断は正当である。

1  取消事由1について

引用例には、第1図の各図に示すように、フープ筋2(本願第2発明のあばら筋に相当する。)を予め多数作成しておき、これを主筋群1の回りに1本づつ巻き付けてその交点を溶接する方法が記載されている(1頁右欄下から2行ないし2頁左上欄2行)。そして、第1図のⅠには、U字形のあばら筋2が示されている。さらに、引用例にはフープ筋のピッチ並びに主筋の間隔も自由に選択でき、主筋の配置の仕方によって第1図各図に示すような多角形断面のものが容易に製作できる(3頁左上欄2行ないし5行)と記載されているので、引用例の第7図及びその説明に記載のものも当然第1図のⅠに示されるようなあばら筋がU字形のユニツトとして製作されることは明らかであるまた、原告は、引用例にはあばら筋のユニツト化は示されていないと主張するが、引用例記載のユニツトは、本願第2発明と同様に、現場配筋工法の問題点である特殊技能員の確保の困難化、工程管理の繁雑化及びこれらに起因する工期の長期化等の問題点(引用例1頁右下欄1行ないし7行)、すなわち、現場であばら筋を1本1本主筋に取り付けていた現場工法の問題点を解決するためになされたものであり、その手段として、多数のあばら筋に対して、横方向に直交する位置に主筋及び横筋を配して溶着するものであって、該手段により多数のあばら筋はユニツトとして一体化される。してみれば、引用例には、あばら筋をユニツトにする考え方自体が十分に示されている。さらに、引用例に記載のユニツトは、前記問題点を解決するために、本願第2発明より一歩進んで主筋とあばら筋をも同時にユニツト化して梁体としているが、主筋を含んでいるからといって、引用例に記載のユニツトがあばら筋をユニツトとしたものではないという原告の主張は妥当ではない。したがって、審決の引用例の認定に原告主張の誤りはなく、一致点の誤認はない。

2  取消事由2について

原告は、U字形のあばら筋の端部に横鉄筋を少なくとも2本溶着することによってキャップタイとの継手部を構成するようにしたものであり、本願第2発明の横筋の本数及び固定位置は構造的に意味があり、特有の効果を奏する点で、引用発明とは異なると主張する。しかし、審決の基礎となった本願第2発明の要旨は前記認定のとおりであって原告の前記主張のようなU字形のあばら筋の端部に横鉄筋を少なくとも2本溶着することによってキャップタイとの継ぎ手部を構成する点は、特許請求の範囲(2)に記載されておらず、本願第2発明の構成に基づく主張ではないから、失当である。

なお、審決で触れている鉄筋籠の強度及び使用箇所を考慮して横筋の数及び配置位置を決定する点について述べると、複数のあばら筋をユニツト化する際、ユニツト自体が相応の強度を保ち、運搬、施工等の取扱時に変形しない程度のものとすること、さらに、施工する梁又は柱、すなわち、使用箇所の寸法によってあばら筋ユニツトの寸法及びそれに伴い横筋の数を変えることはそれぞれ当然のことである。このことからすると、複数のU字形あばら筋同士の上端近傍に横筋を溶着した方が下方に溶着するよりもユニツトの形状が安定し、寸法精度、作業効率が向上することは当業者が容易に類推し得ることであるから、審決の判断に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。

2  本願第2発明の概要

成立に争いのない甲第2号証(本願明細書)によれば、本願第2発明の概要は以下のとおりである。

本願第2発明は、鉄筋コンクリート梁の中に入る梁筋の組立てに関するものである(1頁12、13行)。従来、梁筋の組立ては、予め主筋を柱間に並べておき、あばら筋の端部を90°以下に折り曲げてフックとして、このあばら筋のフックを各主筋に1本ずつ巻き込み、さらにフックを135°に曲げた後、キャップタイを被せる方法等が採用されていた。このように、各あばら筋を巻き込んだ後、135°のフックとする梁筋の組立方法では、狭い現場において、多数のあばら筋を2度にわたって所定の角度に曲げながら、主筋に取り付けていく作業が必要となる。このため、熟練工を必要とすることや、あばら筋の型崩れを生ずるなどの問題点を有していた(1頁15行ないし2頁8行)。本願第2発明は、以上のような従来の梁筋組立法の有していた前記の問題点を解決した梁筋を提供することを技術的課題(目的)とし、特許請求の範囲(2)記載の構成を採択したものであり、その結果(a)現場において曲げ加工の難作業がなくなり、ユニット化したあばら筋をセットするだけでよいので、作業効率が上がる、(b)従来、あばら筋の取り付け作業には熟練工を必要としたが、これを不要とし、しかも工期も短縮される、(c)フックの省略により、梁筋の組立てにおいて、フックと鉄骨の干渉がなくなる、(d)主筋及びあばら筋を整然と納めることが可能となり精度の高い配筋が可能となる(3頁5行ないし14行)という効果を奏するものである。

3  取消事由について

(1)  取消事由1について検討する。

まず、引用例に記載の技術的事項について検討するに、引用例に審決の理由の要点(2)の記載があることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第3号証(引用例)には、「周知のように鉄筋コンクリート構造物を構築するに際して鉄筋を配筋する工法としては、所謂配筋作業員が構築現場において、結束ワイヤ等を用いて適宜構築物の骨組みを組立てていく所謂現場配筋工法が専ら多用されているが、この工法では特殊技能を要し、人手難な昨今好ましくないし、工程管理が繁雑になるばかりか、これらに起因して工期が長くなり、しかも安定的な品質管理が得られない等々の多くの問題があり、最近においては、予じめ工場において柱・梁体のユニツトを製作しておき、これらユニツトを構築現場において組み立てていく所謂プレハブ鉄筋工法が提案され、一部実用化されつつある。」(1頁左欄下から2行ないし右欄11行)との記載があることが認められ、この記載によれば、従来の現場配筋工法の有した上記のような問題点に鑑み、予め工場で柱・梁体のユニツトを製作しておき、現場でこのユニツトを組み立てるいわゆるプレハブ鉄筋工法が次第に実用化されつつあることが認められる。そして、前掲甲第3号証には、このようなプレハブ鉄筋工法の従来例に関して、「予じめスパイラル状に巻付け加工したフープ筋を、主筋群に被せるようにする第1・2の方法を合成したような第3の方法、および第3図(Ⅱ)に示すようにワイヤメツシユ若しくは補助格子を籠体(4)に予じめ製作しておいて、この籠体(4)を主筋群に被せる第4の方法等の手段が採用されている」との記載(2頁左上欄8行ないし13行)が認められるところであり、この従来例のうち、第3の方法は、予めフープ筋をスパイラル状に巻付け加工しておく方法を示しているのであるからかかる工法の開示を、前記認定のような、現場配筋工法の有する問題点とそれを克服するものとしてのプレハブ鉄筋工法の実用化という本出願前の技術状況を踏まえてみると当業者において、引用例には、フープ筋のみによるユニツト化の技術が開示されているものと理解することができることは明らかである。なお、前記認定の第4の方法も、フープ筋、すなわち、あばら筋(フープ筋があばら筋に相当することは当事者間に争いがない。)を使用せずに、ワイヤメツシユあるいは補助格子を使用する点において異なるが、主筋を取り付ける以前の工程、すなわち、本願第2発明のあばら筋までのユニツト化を図る技術を開示しているものと解することができる。原告は、この点について、引用発明は、ユニツト化された鉄筋籠の製作方法を目的とした発明であり、フープ筋群と主筋群の組合せを必須の構成要素とするものであるから、フープ筋のみのユニツト化は開示されていないと主張するところ、確かに、前掲甲第3号証によれば、引用発明それ自体は、フープ筋群と主筋群を必須の構成要件とする鉄筋籠に関する発明であって、これをあばら筋をユニツト化した発明と解することはできないことは原告の指摘するとおりである。しかしながら、引用例には、前記認定のような引用発明の従来技術の開示があり、それが主筋を含まないフープ筋のみによるユニツト化を開示していることは、既に説示したとおりであるからこの点に関する原告の主張は採用できない。

そこで、進んで、引用例にU字形のあばら筋に横筋を配した構造からなるあばら筋のユニツトが開示されているか否かについて検討するに、前掲甲第3号証によれば、第1図には、予めフープ筋を略U字形に多数作製し、これを主筋群の回りに1本づつ巻き付け、その交点を溶接した鉄筋籠のユニツトが(1頁右欄下から3行ないし2頁左上欄3行参照)、また、第7図には、引用発明の実施例として、複数本のフープ筋と4本以上の主筋とフープ筋2aを組み合わせた鉄筋籠が(2頁左下欄12行ないし17行)、それぞれ開示されている事実を認めることができる。しかしながら、両者は、共に、鉄筋籠のユニツトであるから、これをもってあばら筋のユニツトであるということはできないものというべきであるばかりか、前者には、横筋が配されていないし、後者のあばら筋はU字形をしていないことは前記第7図から明らかである。そうすると、これらをもってU字形のあばら筋に横筋を配したあばら筋のユニツトを開示したものとは到底いえないし、他に引用例を精査しても、上記のようなあばら筋をユニツト化したものを見いだすことはできない。

被告は、この点について、第1図のⅠには、U字形のあばら筋2が示されており、さらに、引用例には、フープ筋のピッチ並びに主筋の間隔も自由に選択でき、主筋の配置の仕方によって第1図各図に示すような多角形断面のものが容易に製作できると記載されているので、引用例の第7図及びその説明に記載のものも当然第1図のⅠに示されるようなあばら筋がU字形のユニツトとして製作されることは明らかであると主張する。しかしながら、両者はいずれも鉄筋籠までの段階をユニツト化したものであり、あばら筋のユニツト化がその前工程であるとの一事をもって、かかるユニツトから主要な構成要素である主筋を排除したものを抽出することは妥当とはいい難く、また、このような抽出を示唆する記載を見いだすことはできないから、被告の上記主張は、前記の組合せによる一致点の認定に係る構成についての容易推考の主張としてはともかく、一致点の認定に関する主張としては採用できない。

そうすると、引用例には、審決が一致点と認定した本願第2発明の構成が開示されているとまでは認め難いといわざるを得ないから、結局、審決は、引用発明の認定を誤り一致点を誤認し、ひいては相違点を看過したものといわざるを得ないものというべきである。

(2)  念のため、進んで、取消事由2についても検討する。

前掲甲第2号証(本願明細書)によれば、本願第2発明は、前記要旨記載の構成、とりわけ、U字形をしたあばら筋の端部付近に2本以上の横筋を溶着した構成により、かんざし筋を横筋に渡し、横筋で主筋を受け止め、キャップタイを被せることによって、主筋をあばら筋ユニツトに固定してあばら筋と主筋の接続を図る機能、すなわち、U字形のあばら筋に配した横筋に主筋との継ぎ手部としての機能を持たせることとし、これにより、従来、あばら筋を主筋に接続する上で不可欠とされたあばら筋を所定の角度に折り曲げるフック作業を不要ならしめる効果を奏することを可能としたものであることが認められ、かかる効果が顕著なものであることは後に説示するとおりである。

被告は、本願第2発明の横筋の上記の継ぎ手部としての機能に基づく作用効果は、キャップタイに関する記載のない本願第2発明の特許請求の範囲の記載においては、発明の構成に基づかない主張であるという。確かに、前掲甲第2号証によれば、本願第2発明に係る特許請求の範囲(2)の記載において、キャップタイに関する記載がないことは明らかなところであるが、キャップタイ自体はユニツト化したあばら筋の構成要素ではないのであり、横筋が継ぎ手部としての機能を果たすことを可能ならしめるユニツト化したあばら筋自体の構成は特許請求の範囲(2)に記載されている上、前掲甲第2号証によれば、本願第2発明における横筋の継ぎ手部としての機能ないし効果は、発明の詳細な説明の欄に前記認定のとおり明瞭に記載されているのであるから、前記の継ぎ手部としての効果を本願第2発明の構成に基づかない効果ということはできない。

そして、前掲甲第3号証(引用例)をみても、引用発明のフープ筋2aが、本願第2発明の横筋の果たす上記のような継ぎ手部としての機能を果たすことを考慮してその固定位置を限定したことを示唆する記載を見いだすことはできない。

そうすると、以上のように、継ぎ手部を構成するとの観点から本願第2発明における横筋の本数及び固定位置を示唆する記載が引用例に見いだせないことは前掲甲第3号証から明らかであり、また、本願第2発明の奏する前記継ぎ手部の構成を容易ならしめるとの効果は、引用発明から予測することは困難であるから、これを格別顕著なものと認めることができないとした審決の判断は誤りというべきである。

(3)  以上の次第であるから、本願第2発明を引用発明から容易に想到することができるとした審決の判断は誤りでありこれが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

4  よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)

別紙図面1

4 図面の簡単な説明

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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